インタビュー集

澤田美佳:リビングなんていらない?!

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リビングなんていらない?!

キッズインテリア澤田さんは『Be Sure』をはじめ、『Saitaインテリア』、『東京インテリアショップ』など、数多くのインテリア雑誌を手がけられ、日本人のインテリアに大きな影響を与え続けている存在ですが、まず最近のインテリアの傾向を教えていただけますか。

 決してそんな大きな影響を与えたわけではないと思いますが、最近反省を含めて考えることは、リビングのあり方についてなんです。私たちはこれまで家族団らんの場として、リビングは大切だ、こんなソファを置くと、こんなに素敵な空間になるということを提案してきたのですが、実はリビングは必要ないのではないかと思うようになってきたのです。

団らんの場が必要ないと?

 リビングを団らんの場としてきたことが、そもそも間違いではなかったかと思っているのです。『育児は夫婦で』などと言われていても、現実は、お父さんは朝早く出て行って、夜遅く帰ってくる。日曜日はゴルフにも行く。子供たちは学校から帰ってきたら、すぐ塾に行く。お母さんが働いていたら、会社から帰ってすぐキッチンに立って夕食の支度を始めなくてはいけない。平日家族がリビングで過ごす時間がどれほどあるのか。それなのに、家を建てるとなると、いちばん日当たりのいい場所をリビングにして、それもできるだけ広くとろうとする。その結果、トイレやバスルームなど毎日必ず過ごす場所が狭くなり、あまった空間を区切って夫婦や子供の寝室にする。果たしてこれで居心地のいい家と言えるのだろうか。

その一方、今、ほとんどの家庭のキッチンはオープンかセミオープンになっていて、キッチンにいるお母さんと話すために家族がダイニングにいる時間が長くなっているという傾向もあるんです。結局、家族が使っているのは、キッチンとダイニングで、実はリビングはいらないのではないかという考えが、最近出始めているんです。

昔のお茶の間に代わるものがリビングだと思っていたら、茶の間はダイニングだったというわけですね。

 そのとおりです。長い間、『リビングは団らんの場』『リビングにはソファを』と提案してきましたが、それぞれ生活スタイルは違うのに、ある一つのリビングの型を押しつけても快適な空間になるはずがない。ソファがある暮らしがカッコいいのではなく、せっかくソファを置いても、単なる背もたれになっているんだったら、ソファはやめて上等なカーペットを敷いたほうが、その家族にとっては居心地のいい空間になりますよね。このようなことから、最近は、まず自分たちの暮らしを振り返ってみましょうという提案をしているんです。

それぞれに暮らしに合った使い方を、というのは、どうやら日本だけではないらしくて、ミラノのウィンドウディスプレイも、昔とずいぶん変わってきました。以前は家具のウィンドウディスプレイというと、ソファがあって、テーブルがあって、その上に花やティーカップが置かれているというスタイルが一般的でしたが、今は、ソファならソファだけ、椅子なら椅子だけをウィンドウに飾っている。『うちはソファを作っているけれど、このソファをどういう空間に置くかは、お客様のお好きなように』ということらしいんです。ある家庭では、ソファの横に楽器を置くかもしれないし、別の家庭では犬が寝転んでいるかもしれない。以前はシーンとして展示し、『こういう暮らしが素敵』という提案をしていたのに、今は何かを置くことで、その家具に対するイメージを固定させたくない、できるだけシンプルに見せたいと、グリーン2〜3本さえも置くことをいやがるケースもある。そういう傾向があることは事実です。

オフィスは一様ではない

今、オフィスではさかんにコミュニケーションスペースを作ろうといわれていて、実際作ったものの、あまり活用されていないという声も聞きます。それは家庭におけるリビングと同じかもしれませんね。

 とくにコミュニケーションスペースを作らなくても、食堂を充実させるというのは、現実的な方法かもしれませんね。家庭とかオフィスの区別なく、光を感じる空間を心地いいと感じるのは、人間の本能的な感覚だと思います。だから、食事をする場所は、眺めがいいほうがいいだろうし、四角いテーブルだけではなくて、丸いテーブルや様々なかたちのテーブルを置いたほうが、コミュニケーションの場にもなるし、打ち合わせにも使える。今はランチミーティングということもよく行われるようですが、そこで気のきいた料理を出してくれたら、わざわざ外に出ていかなくてもする。コミュニケーションスペースを作ろうという発想や経済的な余力があるなら、まず、食堂を改善して、多目的に使えるスペースにすることは、一つの方法だと思います。

大企業の食堂に行くと、何百人もの人が食事できるように、四角いテーブルがダーッと並んでいることがありますが、そのようなところは、ある程度の広さで仕切ったりしたほうがいいかもしれない。

 すべてのオフィスに『こういうスペースが必要ですよ』、『こういうレイアウトがベストですよ』ということは、有り得ないような気がするんです。

たとえば、ある会社では営業マンは机がなくて、キャスターのついたワゴンを一つだけ与えられて、営業先から戻ってきたら、そのワゴンを出して、多目的スペースでデスクワークをするというスタイルをとっています。営業マンの仕事の仕方や時間配分を考えれば、なるほど、そのスタイルは理にかなっているなと思います。また、一人で集中して仕事をしなければいけないオフィスでは、一人一人パーティションで区切ったほうがいいでしょう。そういう新しいオフィスを見ると、カッコいいなと思います。

では、当社はどうかというと、編集長の机をスタッフを眺められる位置において、スタッフは向かい合わせに座る、昔ながらの『島型』。われわれのようなみんなで一冊の雑誌を作るという仕事をしていると、編集長がスタッフの状況を見ながら指示を出したり、確認したりということが必要です。へたに区切ってしまうと、スタッフの動きが把握できないし、スタッフ同士のコミュニケーションもとれなくなってしまいます。それに、どんなにメールが発達しても、言葉で言わなければ通じないことがある。最近はペーパーレスの会社もあるようですが、私たちのような業種では、ペーパーレスなんかにしてしまったら仕事にならない。ですから、オフィスも家庭と同じように、その会社に合ったスタイルを選ぶことが大切だと思います。

まず現状を見つめ直す

先ほど家具のディスプレイのお話が出ましたが、家具の最近の傾向について教えていただけますか。

 ひところはクールでカッコいいイタリアモダンが売れていましたが、今は世の中全体が癒しを求めているということもあって、ナチュラル系が多いですね。家庭の家具でいうと、時間的にも経済的にも余裕が出てきた40〜50代の人たちの買い替え需要が増えてきたせいか、とくに落ち着いたダークブラウンに人気が集まっています。これは国内の傾向ですが、世界的に見ても、ビビッドなカラーよりもペールトーンのようなやさしげな色が人気です。

オフィス家具も、昔はグレーのスチール製が主流でしたが、最近はスチール製でもナチュラルな色合いのものが売れたり、デザイナーズブランドの家具が選ばれたりしているようです。とくに椅子は『人間工学を考えた』といわれるブランドのものが人気を集めましたけど、これもむずかしいですね。ある人にはその椅子がとても合っていても、別の人は別のブランドの椅子のほうが疲れないということも、現実にはあるわけです。けれど、食堂などの場合は、何種類かのテーブルや椅子を置いてもいいかもしれませんが、オフィスである以上、同じものでそろえないと美観を損なうこともある。

オフィス空間を作るとき、まずどういうことから始めればいいのでしょうか。

 私たちが家を建てようとする人によく言うのは、1週間なら1週間のスケジュールを書き出すことから始めましょうということ。住む人が満足する家を建ててくれる建築家も、やはりリサーチから始めます。家族の暮らし方、趣味などを充分聞いてから設計に入るわけです。『どういう間取りにしますか?』というところからスタートすると、暮らしやすい空間になりにくいようです。

オフィスの場合、プロジェクトチームを作って、社員の意見を吸い上げることから始めるところが多いようですが、全員の意見を聞いていると現状維持にとどまることがあります。

まあ、家族の場合、二世帯だったとしても、せいぜい10人。オフィスの場合、多ければ何千人の人が働く空間を作るわけですし、かたや緊張から解きほぐされる空間、かたや緊張感をもって仕事に取り組む空間と、空間に対する目的も違いますから、家作りとオフィス作りを同じように述べることはむずかしいのですが、共通していることもたくさんあると思います。

家を建てるときも、オフィスを作るときも、大切なのは、どのような暮らし方をしたいのか、どのような働き方をしたいのか、ビジョンをもつこと。そのためには、まず現状を見つめ直すことです。そうすれば何がなんでもコミュニケーションスペースということにはならないでしょうし、現時点でどの程度ペーパーレスが可能かわかってくる。そのうえで具体化していけば、使いやすく、快適なオフィス空間になるのではないでしょうか。
澤田美佳(さわだ・みか)
エディトリアル・ディレクター。インテリア雑誌の草分け『Be Sure』を10年以上手がけ、『Saitaインテリア』では編集長を務めた。子供部屋のインテリアを提案した『キッズインテリア』、東京で暮らす女性の部屋を紹介した『オンナのリアルインテリア』、国産いぐさを特集した 『i:gusa』などを出版。11月には『東京インテリアショップ2006−2007』を発行。
 
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オンナのリアルインテリア

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