「経営者はワーカーにクリエイティブワークプレイスを提供することで12の知識創造行動を誘発させるべきである。また、各知識創造行動を連鎖させ、知識創造サイクルを加速させるには、知識創造行動の駆動力や加速装置にあたるもの(リーダーシップ、フェイストゥフェイスでの交流、IT等)にも留意する必要がある。」
オフィスの空間設計の視点として、情報処理空間(効率を追求する仕事空間)から知識創造空間(効果のあがる仕事空間)への発想の転換が必要になってきています。
組織の知識創造プロセスは、S「暗黙知→暗黙知」 E「暗黙知→形式知」 C「形式知→形式知」 I「形式知→暗黙知」という4つのプロセスに区分できます。
この4つのプロセスが相互に作用して知識創造が行われていくとする、野中郁次郎氏が提唱した組織的知識創造理論・SECIモデルが検討のベースとなっています。
SECIの各知識創造プロセスを、行動におきかえてまとめたものが「刺激しあう」「アイデアを表に出す」「まとめる」「自分のものにする」にあたり、知識創造を誘発する行動を具体化したものが「12の知識創造行動」です。
知識創造を目指すのであれば、経営者は、自らのオフィス空間内にこれら12の知識創造行動を支える空間を提供しているかどうかを検証する必要があります。
クリエイティブ・オフィス・レポートでは、この12の知識創造行動と空間(クリエイティブワークプレイス)を中心テーマとして取り扱い説明を行っています。
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知識創造行動 |
誘発する空間の代表例 |
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ジグザグの通路。話しかけやすくする工夫がされた執務空間。 |
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雑談したり打ち解けたりするスペース。 |
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ガラス張りや上から見ることができるなど、様子を見やすいような工夫がされた執務空間。製造現場や販売現場の様子などがわかるような工夫がされた空間。 |
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開放的な、ソファのあるような空間。立ち話のしやすい空間。メインのデスクの脇や後ろにある小さなテーブル。対人距離的には70cm程度で、小さな声でも会話できるスペース。 |
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やや大きめの可動テーブルを囲んで、大声を出しても大丈夫な、声の漏れないような明るい空間。ホワイトボードがあることが望ましい。 |
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ホワイトボードをみんなで囲んで、それを見ながらみんなで一つのものをつくっていける空間。 |
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07 |
調べる。
分析する。
編集する。
蓄積する。 |
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電話等にじゃまされず、こもって、落ち着いてPCに向かえる空間。過去のプロジェクト実績、他社の資料、マーケティングデータ等のある社内共有の資料室のような空間。自分の業務に必要となる書籍等を保管する空間。 |
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声が外にもれない会議室。閉鎖され、殴られない程度の対人距離を確保した上で安心して口げんかができるような議論のための空間。 |
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プレゼンテーションを行えるようにプロジェクターの利用できる部屋。権威的な会議室、かしこまった空間で緊張してプレゼンテーションをする空間。プレゼンテーション用の資料を落ち着いてつくるための空間。 |
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試作などが行えるように簡単な工具類のある空間。実験室。 |
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商談スペース。社外の人が気軽にやって来られるような展示ルーム。顧客が製品を試せたりまた、生産現場などを知ることができるスペース。 |
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研修室。ビデオ学習等を落ち着いて行える空間。模擬店舗。 |
S+E+C+I |
01〜12のうちの多くの行動 |
自席。1〜12のうちの多くの行動を行え、かつ素速く各モードをまわすための執務空間。 |
<自席について>
「刺激しあう」「アイデアを表に出す」「まとめる」「自分のものにする」というそれぞれの行動は、全てを自席でまかなうこともできます。
サイドテーブルで同僚とお茶を飲んだりする行動は「刺激しあう」行動にあたりますし、同様にして、同僚と軽く話しながら「アイデアを表に出す」こともできます。
デスクにあるコンピュータを使えば「まとめる」行動も行えます。さらに、Eラーニングなどを席で受ければ「自分のものにする」という行動もできます。
自席では4つの象限の知識創造行動の全てを行うことができるとともに、知識創造行動のモードの切り替えを高速で行うことができるのです。
しかし、モードの切り替えが高速であるがゆえに、各行動のモードをはっきりと切り替えるのが難しくもなります。集中してコンピュータでの執筆(まとめる)をしようとしていても人が話しかけてくれば、すぐに雑談になってしまうかもしれません。行動をはっきりと分ける間のようなものがない状態と言えます。
自席は、ある知識創造行動が行われていたとしても別の行動が突然入り込んできてしまう状況下にあるのです。
<オフィスにおけるワークプレイス>
自席で行われる各行動を、より切り出した形で、モードをはっきりと切り替えて行えるのが、オフィス内の各ワークプレイスです。
コンピュータで執筆しようとするときに、「調べる。分析する。編集する。蓄積する。」に適した専用空間を設け、じゃまが入らない状態で執筆を行えるようにできれば、自席よりも能率があがるでしょう。自席で周りを気にしながら話すよりも雑談コーナーでお菓子を食べながら話したほうが、活発な会話が交わされるかもしれません。自席の隣で打合せを行うよりも会議室のほうが、討議内容に集中できます。ショールームのような空間では、顧客との打合せがよりスムーズに行えるはずです。
自席よりも各行動をはっきりと目的化し、モードを意識して各知識創造行動に取り組めるのが、オフィスの各ワークプレイスといえます。自席での行動の切り替えよりは時間を要しますが、その分だけ各知識創造行動への集中が可能になるのです。
<都市空間(街)におけるワークプレイスについて>
知識創造を誘発する行動に適したワークプレイスは、オフィス内だけにあるわけではなく、オフィスを取り巻く都市空間や居住空間などにもあります。例えば、「刺激しあう」行動にあたる雑談を交わすには、居酒屋のほうが適しているかもしれません。
また、自社の製品が並べられた売り場で顧客を肌で感じるのはオフィス内ではできない暗黙知の蓄積につながる行動です。集中してノートパソコンで編集作業をするのには、同僚からのじゃまが入らないファミレスやカフェを好むような人もいます。
格式張った会議で、こもって意見を収れんさせていくには、社内の会議室よりもホテルの会議室のほうが適しているかもしれません。社内よりも社外の専門の研修施設の方が、研修には集中しやすいでしょう。
オフィスよりも各行動をよりはっきりと目的化し、モードを意識して各知識創造行動に取り組めるのが、都市空間(街)のワークプレイスと言えます。
知識創造を誘発するための空間として利用するのであれば、居酒屋も、カフェも、展示会も、街路でさえもワークプレイスと言えます。
オフィスでの行動の切り替えよりも時間を要しますが、その分だけ各知識創造行動への集中が可能になるのです。
<モードの切り替えスピードと適合度>
自席、オフィスの各空間、都市空間の最大の違いは、モードの切り替えのスピードと、どの程度適しているのかの適合度の違いだと言えます。
<コントローラブルか否か>
オフィス内の空間については、知識創造に適した空間の種類や数、配置など、経営者の戦略的なコントロールが可能になりますが、「貸し会議室」や「カフェ」「研修施設」「図書館」などの都市空間については、経営者のコントロールの範囲を超えているため、戦略的に位置づけることが難しくなります。
<心理的なバリア>
オフィス外の空間については、移動に要する距離の問題や、利用のたびごとにコストがかかるというような問題から、気軽な利用についての心理的なバリアが働きやすいというような問題もあります。
モードの切り替えスピードと適合度、心理的なバリアなどの制約を考えると、自席でも12の知識創造行動のうちの多くを可能にしたうえで、12の知識創造行動に対応するクリエイティブワークプレイスをオフィス内に整備することが望ましく、加えて、必要に応じて都市空間なども利用できることが望ましいと言えます。
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