インタビュー集

内藤稔:トイレとオフィスの親密な関係!!

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テナント確保にトイレ改修は欠かせない

内藤さんは現在、ビルリモデル推進部に所属されていますが、リモデルというのは、古いビルを新しく改修するという意味ですか

 そうです。六本木ヒルズをはじめ、都心にどんどん新しいビルが建ち始め、いわゆる2003年問題がクローズアップされたころ、オフィスビルのコンバージョン(用途変更)が脚光を浴びたことがありました。古いオフィスビルを 住居やホテルなどに改修して、ビル余り時代に対応しようということですね。

ところが、全面改修しようとすると、現在の建築基準法に合わせなくてはならない。そうすると、建蔽率や容積率でひっかかってくることもありますし、配管など設備上の問題もあって、コンバージョンだけが必ずしもビル余りの解決策ではないということがわかってきました。となると、オフィスビルはオフィスビルとして資産価値を向上させなければなりません。このような状況のなか、今、賃貸オフィスの仲介業者さんのところには、膨大な貸しオフィスのデータベースがあります。

一方、いくつかのビルに部署を分散させている会社は、1か所に集中できればコストダウンになりますから、広いフロアを手ごろな賃料で借りたいと思っている。そのような企業がオフィスの下見に来るとき、必ず女性社員を伴ってくるのです。というのは、女性社員は男性社員に比べて、社内にいる時間が圧倒的に長い。オフィスに対する不満は女性社員から出ることが多いし、不満のあるオフィスで働いていれば生産性も下がります。

では、女性社員はどこをチェックするかというと、トイレなどの水回りが重要なポイントなのです。トイレが汚いと、検討する候補にも入れてもらえない。ということを、ビルのオーナーさんやビル管理会社などに理解してもらい、トイレを改善することで、ビルの資産価値を高めてもらうというのが、私の仕事です。実際、トイレを改修しただけで予想以上にテナントさんに喜んでいただき、投資額以上のリターンがあったというオーナーさんからの声をたくさんいただいています。

今、デパートやホテルには、素晴らしく豪華な女性用トイレのところがあって、驚くことがあります。

 デパートやホテル、レストランなど、女性のリピーター客を増やそうとしているところは、まず化粧室回りからということで、トイレを改修しています。先日、私のトイレセミナーに参加していた、あるホテルに勤めている女性に、『私たちが作ったトイレを見てください』と言われたので、見に行きましたら、入ってすぐのところが化粧スペースになっていて、イタリア製の椅子や小物が飾られている。かすかにBGMが流れていて、生花が飾られて、とても豪華な造りで驚いたことがあります。女性たちは、外で、そういう豪華なトイレを経験するから、オフィスのトイレを見る目はいっそう厳しくなるわけです。

今はコールセンターやデータセンターなど、女性が非常に多い職場も増えています。団塊の世代がリタイアすれば、職場の女性比率が上がってくるのは当然ですね。もはや女性の声を無視したオフィスは有り得ないのです。

狭いトイレも改修で広々と

現在、どのようなトイレが主流になっているのでしょう。

 ひと昔前までは、トイレというと、エレベーターやパイプシャフトの横あたりにギュッと押し込められて、“はばかり”という名の通り、存在自体、はばかっているような感じでした。暗くて、狭くて、男性の場合、小便器のピッチが狭くて、隣の人と肩が触れ合うようなトイレも少なくありませんでした。しかも、照明はトイレ空間の中心にありますから、用を足していると、自分の体が光をさえぎって、暗く、なんだか意気消沈してしまうようなところでした。

最近やっと、トイレは寛ぐ場所、安らぐ場所、気分転換の場所という意識が高まり、大きな窓がつけられるなど、明るく、広々とした空間になってきました。壁や洗面台などインテリアには木目調の素材が使われ、気持ちを癒すような空間になっているのも、最近の傾向です。“はばかり”ではなく、表舞台に出てきたという感じですね。

古いビルの場合でも、広くしたり、明るくしたりすることは可能なんでしょうか。

 基本的にすでにあるトイレスペースを広くすることは難しいです。ただ、レイアウトを変えることで、女性トイレの場合、ブースの数を減らさず、お化粧スペースを設けることもできるようになります。また従来、洗面器と洗面器の間のピッチは750mmとか800mm、900mmなどがありましたが、これは男性の体型をもとに割り出されたものなのです。肩幅の狭い女性なら、600mmでも、実は大丈夫なんです。

今まで1600mmの幅の中には洗面器2個しかつけられませんでしたが、そう考えると、洗面器の間に化粧スペースを設けることもできる。そういう発想で作られたのが、TOTOのニューラバトリースペースという商品です。この商品には、このほかにもいろいろ工夫がありまして、洗面器も従来のものより小さくしました。というのは、男性は顔を洗うけれど、女性は手しか洗わない。だったら、洗面器でなくて、手洗い器で充分です。

洗面器(手洗い器)が小さくなったため、鏡に近くなって、お化粧もしやすい。化粧スペースを設けたことで、横から入って、手だけ洗わせてもらう“借り洗い”をしなくてすむ、化粧室での滞留時間が短くなる。結果、仕事の能率も上がると、いいことづくめの商品で、これをつけていただけば、古いビルの狭いトイレスペースも広々使えます。

いいことづくめの商品なんですが、実は、この商品はTOTOの女性の商品開発チームが生み出したものなのです。当社も例外ではなく、これからは女性がどんどん活躍する時代になるでしょう。というより、むしろ、女性が活躍できる企業が伸びる時代。伸びる企業にテナントに入ってもらうためにも、トイレ改修は欠かせないものだと考えています。

以前、NOPAが行った調査研究でも、トイレとオフィスにおけるモチベーションには因果関係があるという結果が出たことがありました。

 とくに女性にとって、トイレは用を足すだけではなく、お化粧を直したり、歯を磨いたり、リフレッシュ空間として非常に大きな役割をもっています。

とはいえ、トイレは日々使うものですから、長期間使えなくなるのは、不便ですね。

 それもありますし、休日にやることが多いですが工事中の騒音や振動でテナントさんの業務に支障をきたすこともあります。TOTOでは、そうしたことを解消するために、クイックエコリモデル工法を開発しました。この工法を利用すると、既存の壁や天井を壊さずに、しかも工期や廃材を最大これまでの3分の1でリモデルできます。ぜひ利用していただきたいですね。

声なき声に耳を傾けて

ビルオーナーには、どのようなトイレをすすめているんでしょう。

 これはビルによって異なります。たとえば、1フロア1企業なら、小物の収納ボックスをつけることが考えられますが、1フロアに複数の企業が入っている場合は、私物をトイレに置くことは考えられないので収納ボックスは不要になります。和式トイレであるなら、洋式トイレに変えることをお勧めするかもしれませんし、手拭き用のタオルがぶらさがっていたりしたら、温風乾燥機をお勧めするかもしれません。女性はポーチを持ってトイレに行きますが、トイレにその置き場所がないと非常に困る。だから、ちょっとした小物置きを作るとか。女性はトイレでストッキングを履き替える人が多いから、女性が多いテナントが入っているなら、そのための台を備えつけてもいいかもしれません。

要は、そのビル、そのビルによって、いちばん必要なものは何かを見極め、ご提案していくことです。世の中の傾向をご説明しても、オーナーさんたちはご自分のビルのトイレのどこが悪いのか、実感がわきません。オーナーさんたちにトイレ改修の必要性を感じていただくために、私独自でトイレ診断表というものを作ったのですが、それには男女合わせて97のチェック項目があるのです。

97もチェックすることがあるんですね。

 そうですね、臭いとか、汚れとか、いろいろ見ていくと97になりました。でも、これでも完全とはいえないのです。以前、女性たちに『トイレに置いてほしいもの』ということでアンケートをとったら、サニタリーボックスが上位になって驚いたことがあります。当然置いてあるものと思っていたのですが、『小さすぎる』とか、『ふたがない』とか、さまざまな問題が隠されていたのです。

また、新しいビルの女性トイレのレバー付近の壁が黒くなっているので、どうしたんだろうと思ったら、手で押すのを不潔に感じて、足で踏んでいたということがわかりました。不満に思っていても、こういうことは、決して要望といった形で上がってきません。しかし、このような声なき声に耳を傾けていかなければ、本当の意味で女性にやさしいトイレにならないのです。逆に、ペダルを踏んで空ける大容量のサニタリーボックスを置いたり、レバーで流すのではなく、非接触式の洗浄装置に変えるなど、さりげなく女性たちが困っていることを改善すると、『うちのトイレ、最近、よくなったのよ』と、女性同士の会話のなかで話題になる。ちょっとした気遣いで、ビルの価値があがるんです。

営業先で入ったトイレがきれいだと、その企業のイメージもよくなりますね。

 その通りです。仕事の効率を上げ、ビルの価値を上げ、企業価値を上げる重要な要素のひとつがトイレなんです。以前、出先でトイレを借りたとき、小便器の上に、書類が乗せられるような棚があったんです。棚には、書類が滑り落ちないように返しもついている。この気配りには感動しました。しかも、そこに間接照明がふわーっと当たって、気分がほっとする。今、トイレの照明についても研究しているところなのですが、照明の当て方も、非常に重要な要素だと考えています。

内藤さんの夢のトイレは?

 ひと言で言うと、ずっとそこにいたいと思えるトイレ。まだまだ照明や器具、レイアウトなど、改善するところはたくさんあります。でも、いつかは究極のリラックストイレを作っていきたいですね。

内藤稔(ないとう・みのる)
東陶機器株式会社販売統括本部ビルリモデル推進部市場開発グループ企画主査。
ビルオーナー、ビルマネジメント会社に対し、利用者視点でトイレ改善による資産価値向上のコンサルティングを行っている。
『月間ビルメンテナンス』で連載を執筆し、『ドクタートイレ』としてブログも発行中。
 
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