内藤さんは現在、ビルリモデル推進部に所属されていますが、リモデルというのは、古いビルを新しく改修するという意味ですか
そうです。六本木ヒルズをはじめ、都心にどんどん新しいビルが建ち始め、いわゆる2003年問題がクローズアップされたころ、オフィスビルのコンバージョン(用途変更)が脚光を浴びたことがありました。古いオフィスビルを
住居やホテルなどに改修して、ビル余り時代に対応しようということですね。 今、デパートやホテルには、素晴らしく豪華な女性用トイレのところがあって、驚くことがあります。 デパートやホテル、レストランなど、女性のリピーター客を増やそうとしているところは、まず化粧室回りからということで、トイレを改修しています。先日、私のトイレセミナーに参加していた、あるホテルに勤めている女性に、『私たちが作ったトイレを見てください』と言われたので、見に行きましたら、入ってすぐのところが化粧スペースになっていて、イタリア製の椅子や小物が飾られている。かすかにBGMが流れていて、生花が飾られて、とても豪華な造りで驚いたことがあります。女性たちは、外で、そういう豪華なトイレを経験するから、オフィスのトイレを見る目はいっそう厳しくなるわけです。
現在、どのようなトイレが主流になっているのでしょう。 ひと昔前までは、トイレというと、エレベーターやパイプシャフトの横あたりにギュッと押し込められて、“はばかり”という名の通り、存在自体、はばかっているような感じでした。暗くて、狭くて、男性の場合、小便器のピッチが狭くて、隣の人と肩が触れ合うようなトイレも少なくありませんでした。しかも、照明はトイレ空間の中心にありますから、用を足していると、自分の体が光をさえぎって、暗く、なんだか意気消沈してしまうようなところでした。 古いビルの場合でも、広くしたり、明るくしたりすることは可能なんでしょうか。 基本的にすでにあるトイレスペースを広くすることは難しいです。ただ、レイアウトを変えることで、女性トイレの場合、ブースの数を減らさず、お化粧スペースを設けることもできるようになります。また従来、洗面器と洗面器の間のピッチは750mmとか800mm、900mmなどがありましたが、これは男性の体型をもとに割り出されたものなのです。肩幅の狭い女性なら、600mmでも、実は大丈夫なんです。 以前、NOPAが行った調査研究でも、トイレとオフィスにおけるモチベーションには因果関係があるという結果が出たことがありました。 とくに女性にとって、トイレは用を足すだけではなく、お化粧を直したり、歯を磨いたり、リフレッシュ空間として非常に大きな役割をもっています。 とはいえ、トイレは日々使うものですから、長期間使えなくなるのは、不便ですね。 それもありますし、休日にやることが多いですが工事中の騒音や振動でテナントさんの業務に支障をきたすこともあります。TOTOでは、そうしたことを解消するために、クイックエコリモデル工法を開発しました。この工法を利用すると、既存の壁や天井を壊さずに、しかも工期や廃材を最大これまでの3分の1でリモデルできます。ぜひ利用していただきたいですね。
ビルオーナーには、どのようなトイレをすすめているんでしょう。 これはビルによって異なります。たとえば、1フロア1企業なら、小物の収納ボックスをつけることが考えられますが、1フロアに複数の企業が入っている場合は、私物をトイレに置くことは考えられないので収納ボックスは不要になります。和式トイレであるなら、洋式トイレに変えることをお勧めするかもしれませんし、手拭き用のタオルがぶらさがっていたりしたら、温風乾燥機をお勧めするかもしれません。女性はポーチを持ってトイレに行きますが、トイレにその置き場所がないと非常に困る。だから、ちょっとした小物置きを作るとか。女性はトイレでストッキングを履き替える人が多いから、女性が多いテナントが入っているなら、そのための台を備えつけてもいいかもしれません。 97もチェックすることがあるんですね。 そうですね、臭いとか、汚れとか、いろいろ見ていくと97になりました。でも、これでも完全とはいえないのです。以前、女性たちに『トイレに置いてほしいもの』ということでアンケートをとったら、サニタリーボックスが上位になって驚いたことがあります。当然置いてあるものと思っていたのですが、『小さすぎる』とか、『ふたがない』とか、さまざまな問題が隠されていたのです。 営業先で入ったトイレがきれいだと、その企業のイメージもよくなりますね。 その通りです。仕事の効率を上げ、ビルの価値を上げ、企業価値を上げる重要な要素のひとつがトイレなんです。以前、出先でトイレを借りたとき、小便器の上に、書類が乗せられるような棚があったんです。棚には、書類が滑り落ちないように返しもついている。この気配りには感動しました。しかも、そこに間接照明がふわーっと当たって、気分がほっとする。今、トイレの照明についても研究しているところなのですが、照明の当て方も、非常に重要な要素だと考えています。 内藤さんの夢のトイレは? ひと言で言うと、ずっとそこにいたいと思えるトイレ。まだまだ照明や器具、レイアウトなど、改善するところはたくさんあります。でも、いつかは究極のリラックストイレを作っていきたいですね。 |
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東陶機器株式会社販売統括本部ビルリモデル推進部市場開発グループ企画主査。 ビルオーナー、ビルマネジメント会社に対し、利用者視点でトイレ改善による資産価値向上のコンサルティングを行っている。 『月間ビルメンテナンス』で連載を執筆し、『ドクタートイレ』としてブログも発行中。 |