高嶋さんは1999年から全社統括のFM(ファシリティマネジメント)を担当されているそうですが、それ以前から御社ではFMが行われていたのでしょうか。
全社的にすすめていこうとなったのは、1999年からです。FMにはいろいろな業務項目があり、それまでにできているものもありましたが、当時のFM先進企業と比較すると、その成果には大きな格差がありました。マラソンでいうなら、彼らの背中が見えないという感じでしょうか。
そこで、?FM戦略の策定と実行推進、?FMの視点でのルール作りやガイド類の発行、?FMのデータベース管理の3つを柱に、ファシリティコストの低減、魅力的で生産性が高いオフィス作り、ワークスタイル変革などに取り組んできました。
具体的には、総経費に占めるファシリティコストの比率を2005年までに10%以下にしようとか、日経ニューオフィス賞にチャレンジしようなど、いくつかの目標を設定し、それをクリアしていった結果、2004年度にはFM先進企業と競争できるレベルになったと実感できるようになりました。2004年の年間のファシリティコストは1998年当時よりも数十億円の低減が図られたのです。
この間、売上高は基本的に伸びているわけですし、2001年以降、東京、大阪、名古屋を中心に人が増えオフィス面積も広くなっています。そのような状況の中で数十億円もコストを削減できたのは、一応の成果なのではないかと自負しています。
数十億円の利益を売上げに換算したら、ものすごい数字になるんでしょうね。まず、どのようなことから始めたのですか。
富士ゼロックス本体だけで従業員は1万4000人。そこには営業もいますし、開発、生産、研究と、職種もさまざまですから、当然オフィスの作り方、考え方も違ってきます。そこでまずいちばん大きな部署である営業サービスから手をつけました。営業サービスは富士ゼロックス単体だけでも全国に約350か所あります。それまで14?だったオフィスの1人当たりの面積を、FM先進企業の例にならって、10?という基準を作り、新しいオフィスは、この基準に照らして設計しました。既存のものに関しても数年かけて基準に合わせ、拠点の統廃合をすすめました。
都心のテナントの場合、家賃、光熱費、ネットワーク等の設備投資の償却費などで1人当たり10?としても、年間コストは150万円?180万円かかります。ですから、無駄なスペースをもたないということは経営上、とても大事なことなのです。
もちろん、最初はかなり抵抗がありました。『そんなに狭くては仕事ができない』とも言われました。でも、大丈夫でしたね(笑)。というのは、当時のオフィスには無駄なスペースがかなりありましたから。たとえば、それまでオフィスのレイアウトは、長をトップにして、部下が向かい合わせに座る島型でした。ところが、部署によって課員の数がまちまちですから、長い島や短い島ができてしまう。これをやめてユニバーサルレイアウトにしました。また、当社は複合機やプリンタの会社ということもあって、放っておけばいくらでも書類がたまってしまうのですが、書類は1ファイルメーターまでと収容量も決め、資料の電子化も進めました。
さらに当社では半年に一度組織改変がありまして、そのたびにパーテーションを動かしたり、電話線や電源、ネットワークの工事が発生していました。それをやめ、人とパソコン、せいぜいワゴンだけを動かすようにしました。
先ほど1人当たりの面積を14?から10?にしたと言いましたが、これも単に面積を小さくするだけでなく、1人当たり面積を8?にして、残りの2?分で今までなかったコミュニケーションスペースやコラボレーションスペースなど、新しい機能を付加したのです。 六本木T?CUBEという営業の一大拠点があるのですが、ここのオフィスは2004年度ニューオフィス賞を受賞しました。『異なる部門・支社・拠点間のコミュニケーションの活性化』を狙って、出入口近くに設けたコミュニケーションスペースには寛げるタイプの低い椅子や、ソファなど、視線の高さが異なる家具を置くなど工夫しています。集中して仕事をしたい人のためにDENという個室タイプのブースもあります。
この結果、1人の面積は狭くなったけれど、機能的だと社内の評判も上々です。以前はレイアウト変更のたびにタイル1枚の幅が狭くなったなどという争いもあったのが懐かしく、今は減らせるものは減らしたい、無駄なスペースは返そうという意識が生まれてきました。
それまでは1人当たり14?といっても、使いもしない資料が山積みになっていたり、レイアウトの効率が悪かったため、打ち合わせする場所もなく、やむなく個人の机の周りに集まって打ち合わせしていたようなところもありましたから。
それはオフィスの使いにくさだけでなく、セキュリティの点でも問題でしたね。2005年に「個人情報保護法」が施行されましたが、この点はどうですか。
当社では、e化されたオフィス空間をいかに活用するかに力点をおいて、オフィスファシリティに取り組んできました。社内ルールとしても、1999年に『コンピュータネットワークセキュリティユーザー基準』を制定したのですが、5年たって見直しの必要を感じていました。そのようなとき、『個人情報保護法』が施行され、社内外からセキュリティに対する要求が高まりました。
セキュリティと利便性は相反することが多いのですが、その両立を目指して、BS7799?2:22のフレームワークを活用して『情報セキュリティ規程』を見直し、『ファシリティアクセス管理規程』を新たに制定しました。『情報セキュリティ規程』は、富士ゼロックスおよびその関連会社の情報セキュリティの基本原則と共通ルールを定めたもので、『ファシリティアクセス管理規程』では富士ゼロックスおよびその関連会社の資産(情報・人・物)を保護するために、ファシリティへの適切なアクセス管理に関する基本原則を定めています。
とはいっても、投入できるリソースは限られていますから、『ファシリティアクセス管理規程』に関しては、セキュリティレベルの高いファシリティから順番に物理的なセキュリティ対策の工事を実施しているところで、2006年9月までにだいたい完了する予定です。
当社はドキュメント・カンパニーを宣言していますから、ドキュメントや情報セキュリティに関して、心構えにしても、技術的な問題にしても、世の中の水準以上でなければいけないと考え、かなりきちんとまとめたつもりでいます。
入退室のチェックはどのようにされていますか。
資産の重要度に応じて3段階にわけています。そのレベルに応じて、入室だけチェックしたり、退室もチェックするなど、さまざまです。当社にとって重要な事業所や部屋への出入りは、当然非常に厳しくチェックします。
当社の場合、テナントで入っているところも多く、その場合は、だれでも会社の入り口までノーチェックで行けてしまう。これからはセキュリティがどれくらいしっかりしているかでテナントビルの価値も変わってくるでしょう。
ただ、こうしたハード面を充実させるだけはやはり不充分なんですね。当社では社員は社内で社員証をつけてますし、お客様にはビジターカードをつけていただいているのですが、何もつけていない人には声をかけるなどソフト面をしっかりさせることも重要です。そのためにはやはり明確な運用ルールを作ることが必要でしょう。部屋を開けた人と、閉めた人が記録として残っているとか、運用ルールどおりやっていることが証拠として残らないとセキュリティが確保されているとはいえないでしょう。
NOPAではセキュリティの新しい認証制度である「オフィスセキュリティマーク認証制度」を新設しますが・・・。
個人情報や機密情報は、その扱いを誤ると企業の存続そのものに関わる重要事項です。オフィスセキュリティの要求も高まっていますし、さまざまな情報保護の強化策をすすめなくてはならない状況のなかで、オフィスセキュリティマークはいいタイミングで計画されたと思います。
とくに企業の経営資源(人・物・金)に関する情報が集まるオフィスの物理的セキュリティ対策は、情報セキュリティに比べて、まだ充分とはいえません。具体的な基準を設け、運営維持していくことで、オフィスの物理的セキュリティ対策が向上し、企業のリスク管理強化につながると期待しています。
高嶋さんが考える理想のオフィスとは?
非常にむずかしい問題ですね。オフィスが働く場所である以上、業務やビジネス展開が計画したとおりにすすむような執務環境が整えられていることでしょうか。
しかし、それ以前に、どのような働き方を目指すのか、何に価値をおくのかなどを明確にする必要があると思います。効率を最重要と考えるオフィスと、コミュニケーションやコラボレーションの活性化をより重要と考えるオフィスでは、おのずと作り方も変わってくるでしょう。働く人間の立場から言えば、ワクワク、生き生き仕事ができて、新しいアイデアが次々と生み出されるオフィスは素晴らしいと思いますが、ではそれはどんなオフィスなのかというのは、目下の課題です。
景気回復が本格化し、団塊世代が定年を迎え、少子化になっていくこれからの時代、企業は優秀な人材確保のためにオフィスはさらに変わっていくと思います。その変化を見据えて、次世代オフィスというものを再定義していかなければならないでしょう。そのようなことが当社だけでできるのか、あるいはいろいろな専門家と融合体を組むのかも考えなくてはなりません。私としては、これまで自社オフィスで培った経験や成果をベースとして、お客様のオフィス環境作りなどのソリューションを提供できればと考えています。 |